さよなら、いもうと。 (富士見ミステリー文庫)
新井輝(著)・きゆづきさとこ(イラスト)

大切な人が、そばにいると嬉しい。ある兄妹の物語―。

トコが死んだのは三日目のことだった。交通事故だった。大型トラックに弾かれたとだけ聞かされた、遺体は見ない方がいいと言われた。そんな死に方だった。
そう、そりゃ言葉では分かっている。人間いつか誰だって死ぬってことは。自分であれ、他人であれ、事故なのか、病気なのか、寿命なのか。
でも、俺は死ぬってことがまだよく分かっていなかった。そしてもっと分かっていなかったのは、人が生き返るってことで―。
由緒正しい魔法の日記に書かれていた「お兄ちゃんと結婚したい」という言葉のせいなのか、妹―トコは生き返り、また俺と暮らすことになったんだ…。

新井輝が描くどこにでもいる普通の兄妹の、普通ではない数日間の物語。それは、ちょっと素敵でちょっと切なく心に染みわたっていく―。


 きゆづきさとこさんの可愛らしいイラストと「妹モノ」という響きに「萌え!?」と勘違いした人も結構いたそうですが、このあらすじと「さよなら」というタイトルを見れば、そーゆーお話じゃないことはおわかりかと思います。

 ただし、これまた少なくない方が想像するような鬱展開とかお涙ちょうだいものでもありません。そんな単純な作品じゃないんです。
 だって、書いてるのが「ROOM NO.1301」シリーズの新井輝さんですもの。


 ストーリーは、あらすじにあるとおりです。
 突然の交通事故で妹を喪った兄の視点で、(誤解を恐れずに書けば)淡々と物語は進んでいきます。そこに、湿っぽさはほとんど感じられません。むしろ、心地よいくらいに乾いた、冬の朝に感じるような、あの澄み切った空気感があります。

 生き返った妹のあっけらかんとした言動がそう思わせるのかもしれませんが、新井さん独特の文体が大きく寄与してると私は感じました。


 しかし、読んでいる人間がみんな予想するように、物語はある一点に向けてゆっくりと、けれど着実に進んでいきます。進んではいきますが、そのスピードは極めて緩やかで、そして「イタクない」のです。


 あっさり、という言葉が妥当かは疑問ですが、そんな感じでこの不思議な物語は(一応の)決着をします。
 しますが、それは新しいスタートでもあり、これが本当の終わり、とも思えない、そんなエピローグに繋がっていきます。


 湿っぽい題材ですけど、読後感はいい意味でさっぱりしている作品です。


 あとがき読むと、続編の構想もあったような……?
 もし続編があるとするなら、どんな話になったんでしょうね。凄く気になります。